結局、病室を移ることさえ出来なかった。
兄はこの病院にそれなりの寄付金を渡してるはずだが、それでもだめだというのはあの男の権力のせいだろう。完全に周りは敵だらけらしい。

「アン、絶対隣の部屋から出てきてはいけないよ」
「あの怖い人が来るならアンも闘うわ!」

鼻息荒くそういうアンに困ってしまう。あの男は今日も来るといった、何とかそこで話をつけなければ本当に俺はあの家に送られてしまう。
「とにかく、出てきちゃダメ。出てきたら一週間お菓子ナシだよ」
「うぅ…じゃあでない!」
子供は単純でよかった。深く理由を考えることなく周りに散らばった玩具や絵本を拾い隣の部屋に運んでいく。

「アン、お菓子の食べ過ぎは――」

―ートントン

規則正しい、だが強いノック音。看護師ではなく間違いなくあの男だろう。
僕はアンにあっちにいくよう合図をして答えた。

「…どうぞ」
「考えは変わったか?」

憎たらしいほど整えられた髪型に皺のないシャツ、そして黒のジャケットを着た男。

「変わってないし、虫唾が走るほど貴方と会いたくないけど…貴方は話さないとしつこいから」
「そうかそれはよかった」

男は薄く、微笑む。
「髪、切ったのか」
「5年前からこの髪型だよ。あと触らないで」
軽く髪に触れてくる男。
その5年なんて歳月がたってないようなしぐさに僕は反射的に心臓がどくどくしてしまう。
「アレは5歳か…もっといい教育を受けさせれば立派な淑女になる」
偉そうに、なにを
「アンのことをアレって言わないで。それに今でも十分な教育を受けさせてるから」
「ラリュイエール家の娘としてはまだ足りないな。最低でも4ヵ国語は喋らせて踊りはもちろん乗馬も、そして気品を身に着けるようにさせないと」
ずっと放っておいたくせに、存在すら認知してるか怪しいくせに何を言ってるんだ。
「アンはラリュイエール家の娘じゃないしこの年で外語が2ヶ国語を喋れるし踊りはワルツが踊れる。乗馬は危険だからやらせないしあの子は生まれ持った品格があるから貴方のいう『教育』は不要!」
まくし立てるように言った僕にあの男はなぜか笑った。
「ほう…もう2ヶ国語も喋れるのか。発音もしっかりとしたものができるのだろうな?」
「もちろん、綺麗な発音を徹底的に教え込んだに決まってる。それに完璧主義の子だし勉強に関しては自分に厳しい。それがたまに心配になるけど……」
そう、アンはすごいのだ。乾いた大地みたいにいろいろなことを吸収していく。たまに我儘なところがあるけど…それが愛嬌になるぐらいの頑張り屋だ。
「心配、なのか?」
「どんなに完璧な子でも子供を心配しない親なんていないからね。完璧だから、脆いんだ。」
時折、すごい我儘を言う時がある。それはたぶん寂しさの裏返しなのかもしれない。
まるでこの男のように――
「…何を考えている?」
「なにも!」
全てを見透かす瞳は笑っていた。
可愛いアンとこの男に共通点なんてあるはずないのに――!

「さて、では私も彼女に会わせてもらおうか」
「ダメに決まってる!」

それは、だめだ。
アンには父親は死んだのだと伝えている。それが、真実を知ってしまったら…僕が男から離れた理由を知ってしまったらどれだけショックを受けるだろう。
…なんて、言い訳をするけど本当は僕がこの男とアンを会わせたくないだけだ。

「碌なもてなしもうけてないからな。せめて紅茶ぐらいは入れてもらいたいのだが」
「5歳の子供にそんなことさせるわけないだろう!」
「じゃあ、お前がもてなしてくれ」

怪我人にやさしくないのは変わらないらしい。
アンに会いに行かせるよりかは数百倍マシだと思って紅茶をいれるためベットから出ようと――

「…そういうもてなしより、お前にはこっちのほうを貰いたい」
「――ッん!?」

唇に熱い感触がする。
最初は優しくついばむように次第に激しく、全てを奪い取るかのような懐かしいキス。
僕は何とか抵抗しようとおもうけどファーストキスからなにまで全部この男に躾けられた身体は言うコトをきかない。
「はッ、んん、ぁ…!」
「ほら、もっと口を開けて」
酸欠気味な脳内はあまり動いてくれなかった。舌でもかみ切ってやればよかったのに。

数分間、そうしていた気がする。
やっと離してもらえたときにはぼんやりしていてこの男に寄りかかってしまったぐらい
「いい子だユリシア」
そんな僕に満足気に額へキスをする。
「もっと、先も欲しいだろう?」
つぅっとなぞられる患部。
涙でぼやけている視界にはわずかに熱を持ったソコが見えた。
「やぁ…!」
「素直になりなさい」
パジャマの上からなぞられ、そして侵入してくる手のひら。
その確かな快感に久しい身体は悶えた。
「…初めての様に可愛い」
「そんなことッ…ああ!」
『お前はいつでも可愛かったが今日は特別だ』なんて、耳元でささやかれる。
恥ずかしい、でも気持ちいい

「ほら、隣に聞こえてしまう。声を抑えて――」

その言葉に、目先の快感に支配されていた脳が回転する。
隣に娘がいるのに、こんなことこの男にされて抵抗しないなんて――!
「やッ、やめッ、ひぅッ!」
「余計なことを言ってしまったか。…アレを呼んで早めの性教育でもするか?」
そんな、笑いごとにならないことを悪魔の微笑みでいうこの男を殴ってやりたい。
「ぁ、あッ、んぁ、あぁ…やめてッ!」
「可愛いな本当に…」
熱っぽい声で後ろからささやかれる。
僕は本当にやめてほしいのにこの男はそれが余計楽しいらしい。
「ほらもうイきそうだろう?我慢するな」
「やッ、やぁッ、あ、あ、ッ――!」
い、イってしまった…
はふはふと荒い息をこぼしながら僕は罪悪感で一杯だった。
「…ずいぶん濃いな。一人でしてなかったのか」
相手がいる可能性を考えない言葉に、少しムカつく

「…僕に、相手がいるとは考えないわけ?」

――少しの意地悪で言った言葉が、男の逆鱗に触れるとは思いもしなかったのだ。

「そうか…5年間監視をし続けてきたが、そういう報告はなかったのだがな。その監視役とそういう関係だったか、それとも一緒に居てばれないような関係…あのルノーアとかいう兄か?」
みしりと、骨が鳴るくらい肩をつかまれる。
監視されているだなんて知りたくもなかった情報だ。
「…そうだとしたら?」
でも、後には引けなくて嘘で挑発してしまう。
男のアイスブルーの瞳が、苛立ちを湛えた。
「…私は人の手垢のついたものは嫌いだが、一度だけの過ちとして今なら赦してやろう」
「随分、優しいんだね」
「ああ私はお前にだけ優しいんだ。過ちは許すし間違ったのなら正しい道を教えてやる。私はお前の保護者で友人で夫だからな」
「…貴方は僕の何にでもないよ」
後ろからささやかれる言葉はどこか狂気じみていた。

「そうか、そういう態度ならばもう一回わからせなければ」

男の指先が、女性の部分を触る。
最初はなぞるようにそして濡れてきたソコに浅く指を入れ――
「ひゃぁんッ!」
いきなり奥まで入れられる。
何とか受け入れようと息を吐くけどどうにもならなくて苦しい。
それに大きい声を出してしまった。あの子がもし来てしまったら――!
「――締まったぞ、何を考えた?」
「ぁ、んん、んー!」
両手で口を押える僕を男はおもしろそうに見た。
「私しかお前に快楽は与えてやれん。この体にすべてを教え込んだだろう?春にバルコニーで犯したこともあったな。夏にプールで後ろから突いたときは水に溺れかけて可哀想なぐらい痛々しかった。ほかにも秋に授業を受けているお前に玩具を入れながら遊んだことも覚えてるか。冬には――」
男は楽しそうに僕にしてきた様々な所業を話す。
そうして僕のナカをいじくる。
「楽しかったな?お前は庭で本を読んだりするほうが楽しいと言っていたが…」
そうだ、僕は貴方と何気ない時間を過ごすほうが楽しくてしょうがなかった。
…でも、セックスも気持ちよかった
快楽に溺れて正常な思考が働かない。昔から、この男に触れられると何も考えれなくなる。
もっと、もっと大きいのが欲しい
腰を揺らしてもっと貪ろうとするけど彼は指を抜いてしまった。
「な、なんでぇ…」
「お前が嫌がった」
「いじわる…」
そうだ、彼もその気にさせればいいんだ。
僕は痛む右足を引きずり彼のズボンのチャックを降ろそうと――

「――相変わらず、快感に弱すぎる」

そのぞっとするほど冷たい音を含ませた言葉に僕は一瞬で熱が冷めた。
僕は、僕は何をしていたんだろう
もうこの男とはそんなことしないって決めてたはずなのに
男から後ずさる僕がベットから落ちそうになる。男はそんな僕の手をひぱって自分のほうへもっていく。
男の胸に飛び込んでもごもごしている僕を強く、抱きしめた。
「…こうしたかったユリシア」
馴染み深い体温。
「口は悪いし髪も切っているが、お前なんだな」
そんな、こと
反抗したい心とは裏腹に心が温かくなっていくのを感じる。
「…私と家に帰ろう?」
「…嫌」
それだけは、嫌だ
浮気をした彼を許せてないしなにより、アンがいる。昔みたいに子供のように気まぐれな振る舞いはできない。
「なんで嫌なんだ?」
「…許せないから」

「なら、許せれば私とともに家に帰るのか?」

なんか、はめられた気がする。
おそるおそる男のほうを見ると、悪魔の微笑み。
だけどここで前後撤回するほど僕も安くない。

「――許せれば、帰る。だけど…無駄な努力だと思うよ」

「それはどうかな」

そうして、男と…ミシェルと僕の再びが始まった。
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